放射線と放射能の基礎知識
–今こそ現代医療システムの真価が問われる-
放射線の人体への影響が一番研究されたのは,広島・長崎の「原爆後遺症」の丹念な追跡によって,です.それによれば,放射線の影響には「閾値といえるようなものがない」のです.それを裏返していえば,少しでも浴びれば何らかの影響は<必ず・ある>のです.
放射線症(原爆症)のネズミを解剖したことがありますが,造血組織がほとんど壊滅していて,貧血症状でみんな死んでいく運命にありました.なんとか生き残ってもたえず白血病などのガン化のリスクにさらされています.寿命のホンノ短いネズミでもそうだから,寿命の長いヒトだったら,その効果はどんどん蓄積し,白血病のリクスはどんどん高まっていきます.結局発病するのは,10年〜20年後からです.わたしたちのようにもう60歳をすぎれば,タバコをドンドン吸って肺ガンのリスクを高めようが,放射線を浴びて白血病のリクスがドンドン高まろうが,20年後には,他の病気で死んでいますから,「もういい,それこそ自己責任で,好き勝手にやれ」ということになるのでしょうがね.
現代人が一番放射線を浴びる機会は,実は,X線検診において,です.それは「病気のときは,病気で死ぬリスクと,放射線の後遺症で死ぬリスクとをくらべて,前者の方が圧倒的に高いから,後者を『無視』しよう」という医療関係者の「暗黙の了解」があるから許されているのです.しかし,40歳「以下」の人の場合には,放射線の後遺症によるリスクが無視できないことがわかってきました.近頃は若年者,若者に対する「X線集団検診」というものはもうなくなったのにお気づきでしょうか.
小さい子どもたちについていえば,放射線をあびればあびるほど,ガン化のリスクはドンドン高まります.いくらその確率が低いとはいえ,たまたま「運悪く」10歳から20歳でガンになった子どもが出たら,そりゃ家族には一大事でしょう.ですから,子どもたちをもつ親が神経質になるのはそれこそ本能的な,自然の感性においてそれこそ「あたりまえ」のことなのです.これは「風評被害」などとは全く別の次元で議論しなければならないことなのです.
放射線をこれこれの量あびても大丈夫だ,なんてことはもし彼が放射線医学の専門家だったら,「絶対いえないような話」です.電力中研の連中なんては,そりゃ電力会社の「飼い犬」も同然で,「絶対安全・絶対安全」を連呼して「原発安全神話」をつくり出してきた張本人たちでしょう.そんなに安全だ,というのなら,どうせ40歳すぎの連中だろうから,自分がその量の放射線をシッカリと浴びてみて,ホラ,大丈夫だよ,とそれこそ「実証」してみたらどうでしょうかねぇ.
突然変異率の計算のもとになっている実験に「ショウジョウバエのオスの精子」が「わざわざ」選ばれたのは,「DNAの損傷による突然変異率」をより正確に計算できるから,ですよ.当時はショウジョウバエだけが染色体地図が「ほぼ正確」にわかっていて,しかも,ショウジョウバエの場合は,遺伝子の損傷が「そのまま」形態異常にあらわれるので,「わざわざ」ショウジョウバエのオスの精子が選ばれたのです.
その実験結果が「誤っている」わけじゃないのです.むしろ誤っているとしたら,その政治的な「解釈」でしょう.
安全基準って,そうした遺伝子損傷からする病気への発現率が「ほぼ・あらわれないだろう(無視できるだろう)」率に,さらに「安全係数」をかけて「極力・低めに」決められています.ところが,これじゃ放射線作業もできない,って「原子力産業界」からの,いわば政治的圧力で,200ミリシーベル/年,という数値が決められたといいます.それをもっと引き上げてくれ,という「政治的な話」はこの間たえずあった,と聞いています.いまやほとんどのエネルギー関連の研究所が,東京電力との関係において「利益相反」が疑われるのに,そこを取材源にしてそのまま記事にするなんて,そのジャーナリストの「頭がどうかしています」よ.
なお,「外部」被曝でしたら,それが原爆症なみでも,いまの治療体制の中じゃ簡単に死にはしません.生き残ったあとの,その10年後からの後遺症としての発ガンなどがむしろ心配なのです.
さらに,今回の原発事故では,放射「能」の体内吸収・残留・蓄積による「内部被曝」のほうがはるかに大きなそして深刻な問題源になります.広島・長崎型原爆の数十倍から百倍の量の放射「能」が,すでに環境に飛散してしまっている,のですから.
日本のような人口密集地で,これだけの放射「能」がばらまかれたケースは人類史上「初」です.研究はずいぶん昔のもの以外にほとんど<ない>に等しいのです.今から始めるにしても,疫学調査では,ヒトの場合には1世代以上が必要で,それにまた20年はかかってしまうでしょう.そうした自然学的な根拠が<全く・ない>のに,日本では年寄りが多いから平気だ,環境基準を引き上げろ,なんて類の話は,明らかな政治的な「大嘘」であり「暴論」であり「呆れた話」でしょう.
私たちが育った,1950〜1970年代,というのは大国が競って大気中で原水爆実験しましたから,今の環境放射能からすると数桁上の被曝をしているはずです.白血病の発病例もしたがって相当数あったはずなのでしょうが,結局,細胞のガン化の原因は多種多様ですから「原因不明」として片づけられてしまっているのでしょう.同窓で,熱心なクリスチャンで,お医者さんになったIさんも,白血病で若くして死にました.
X線による集団検診だって,現代ほどの精度はありませんから,結局は,false-positive(擬陽性)という領域を広めにとって,「病変を見落とす」可能性をなるべく少なくしようとしたのです.しかも法令による「お上の強制」として「税金」で大々的に行われました.これは,「徴兵制」つまり「国民皆兵制度」の名残だったのかもしれませんよ.
それに,医者じしんを含めた医療関係者は「特権階級」であって,ずいぶん「横柄」でした.今では,患者さんの自由意志の確認と,それに基づいたIC(Informed Consent)が必須ですから,患者さんにキチンとprotocol(診療手順)の説明のできない古いタイプの町医者などは,次第に駆逐されていくでしょうし,駆逐されてしかる「べき」だと思います.
地方でいちばん威張っていたいわば「特権階級」,そして地方を「食い物」にしていた連中って,お役人,医者,先生,そして(特に浄土真宗の糞)坊主,だったように思います.そうした「地方的特権」もまた次第に消滅しつつあるように見えますし,また消滅してしかる「べき」だと思いますね.