自然数システムから4元数システムへ

 

自然の「数・量」  ギリシア古代では,自然の運動や作用の「数・量」は,幾何学的図形を「描く」という純粋な行為に還元されて考察されました.現代自然システム論においては逆に,純粋な自然のカタチ(形相,図形)は自然の事物の運動や作用の「数・量」に還元されて考察されます.

たとえば,1個の点,1本の線,等々- によって表現されるロゴス的に<不可分なるもの>に対応する運動や作用は,自然において「現に・存在する」のです.たとえば,あらゆる作用量子は純粋に「1」個であり,それ以外には全くありえません.素粒子のスピンは01/2, 1,・・・等々の「半」整数でありそれ以外では全くありえません.光の速度は純粋に「c」です.また,すべての光の速度は全く同一で,それ以外には全くありえません.このように,自然においては純粋かつ単純な,運動の作用の「数」や「量」が現に・存在しているのです.それらの単純な「数・量」で表現されるものどもの厖大な数の組合せから,この複雑な世界が現に成立していることが,20世紀においようやく明らかになりはじめたのです.

マクロコスモスである宇宙に眼を転じますと,たとえば地球自身は「ほぼ」純粋な楕円です.その「ほぼ」の精度ですが,地球を長半径1mの楕円とした場合には,1mmメートルの誤差しかありません.また太陽系が占める広大な空間のなかで,地球は「ほぼ」点にすぎません.太陽系を1mの球に例えれば,地球は数μ以下の砂粒以下の眼に見えないほどのほぼ「無」に等しい存在で,その上に70億人の人間が棲んでいるのです.こうなると,数学的な「点」は「実在する」といえるのではないでしょうか.

自然数はnatural numberといわれるだけあって,明らかにこの自然において実在する,といえるでしょう.私たちは1個,2個,と離散的な個体の数を実際に「数える」ことができます.無理数もまた自然において実在するといえます.自然数を拡大すると,無理数を含む代数的整数になります.代数的整数はまぁ実在するとはいえるでしょう.たとえば√2は,直角を挟む1辺が単位12等辺直角3角形の斜辺を作図<する>ことによって,その実在を示すことができます.虚数は,回転運動の表現である,とこれを見なすことができます.超越数でもπなどは円の作図によって実在であることを示すことができるでしょう.そして,それら代数的整数は,最終的には超越的なDedekind的な切断によって,実数体へ,そして虚数体へ,と逐次拡大されえます.その拡大する「行い」によって得られた極大の数システムがHamilton4元数体です.

こうしてえられた実数の「全体」としての実数体や,虚数の「全体」としての虚数体となると,それがホントに連続なものなのか,切っても切れないような繋がりがこの世にあるかどうか,疑問に思う人も多いでしょう.さらにそれが4元数の「全体」である4元数体ともなると,この自然における実在性を疑う人も多いのではないでしょうか.とりわけこの4元数()の「存在」の自然学的な意味については,学生時代から不思議に思っていました.

 

4元数体の重要性  わがメタ自然学においては,超複素数システム(hyper complex number system,現代数学では「多元環」といわれる)とりわけ,4元数システム上の微分形式(differential form)が,重要な役割を占めています.物理学を学んだ人であれば,空間は連続な実在であることも,虚数がいわゆる回転運動の表現であることも,よく知っています.じゃ,4元数はどうかというと,それは実は,ミンコフスキー空間(Minkowski space)における自然の事物の運動性の表現であり,またLorentz変換群の構成要素でもあるのです.このように考えますと,ディラック(Dirac)方程式のスピノールも,4元数のマトリックス表現の1種なのです.自然数はむろんのこと,実数も,虚数も,4元数も,一般的に自然の「数・量」(物理量)とは,静的なモノに対応するのではなく,むしろ自然の事物の「運動性」の表現」だったのです.4元数体の発見の歴史は実に代数学の歴史そのものであるといっていいくらいで,この発見に至る過程はファン・デル・ヴェルデン『代数学の歴史』に載っています.これはそのうちにまとめて作品集に発表する予定でいます.

ノルムをもつ超複素数システムって,1次元,2次元,4次元,8次元,それしかないことがわかっています.1次元が実数,2次元が複素数,4次元がハミルトンの4元数で,これがローレンツ群の表現であることも,Dirac方程式と関係があるもよく知られていますから,まぁここまではうまくいくことが確かめてあるのでいいとしても,最後に残るのは8元数です.これがはたして一体何ものなのか? 自然学において意味をもつものなのか? 超ヒモ理論との関係は?

 

4元数体上の微分形式論による相対論的場の量子論へ  自然の窮極のロゴスは何か,それについて実は,手掛かりらしきものをようやく見つけました.それが4元数です.時空要素をdτ=dt-idx -jdy-kdzと書いてみますと,これがミンコフスキー(Minkowski1864-1909)空間の要素の微分形式による表現であることがわかります.相対論的量子力学は,4元運動量をd/dτ=/t-i/x-j/y-k/zと書いてみると,これらからディラック(Dirac1902-1984)の量子化の方法で,生成演算子,消滅演算子を作ることができます.量子化するにあたって,定数などはちょっと工夫する必要がありますが,アイディアとしては「行ける」と思っています.スピンが1/2の場合は,この4元数の平方根を基底とした4元数ψで,ψ*ψ=dτ,になるようにとれば,これがディラック方程式の解に対応することになります.

問題はその自然学的解釈なのですが,量子すなわち作用素 -作用することにおける<素なるもの>- とは,相空間(時空,4元運動量,それは4元数上の微分ベクトル場によって表現されます)内の1つの閉図形である,つまり,数学でいうサイクル(cycle,閉体つまり閉じた図形に対応する)である,と考えるのです.4元運動量は完全に保存されますから,この世界のあらゆるモノとは,相対論的量子力学的運動状態であり,結局,この自然は,多くの量子力学的状態としてのモノどもが,全く等価な作用素を相互に交換しあって,つまり相互作用することによって成立している,ということになります.

世界は多くの<不可分なるもの>とただ一つの<空なるもの>とからなる,というデモクリトスの世界観は,かくして相対論的量子場の理論においても,完全に有効であることが証明されます.4元数体上の微分形式論こそ,わがメタ自然学にふさわしい自然学のオルガノンとなることができるのではないか,と期待されます.

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