夏休み,田舎の叔父の家に泊まったときのことを思い出します.土壁に,それまで図鑑でしか見たことしかなかった「オオミズアオ」その他,がベッタリと貼り付いていた.土壁じしんが「生きた昆虫図鑑」でした.子どもゴコロには「驚異」なんでしょうが,そこに定住している人にとってみれば「脅威」というかただただ迷惑なシロモノ,にすぎなかったのでしょう.
オオミズアオ(大水青),ヤママユのなかま,それは実際に見た,最初の巨大蛾でした.ギリシア神話に出てくる狩猟好き女神の「アルテミス」の名をもっています.そういえば昼間には,巨大なヤママユも壁に貼り付いていました.里山は,今思えば,昆虫たちの王国でもあったのでした.
も一つ質問です.オロロ=ショウジョウバエ,カマドタタキ=カマドウマ,でいいのでしょうか.
なるほど,それじゃ,オロロ=ブユですね.ブユは田舎ではブト,と言って,結構恐れられていました.吸血性のブユの幼虫は清流にしか住まないとのことなので,結局,水のきれいな田舎にしかいないそうです.吸血時に毒素を注入するので,アレルギー体質のヒトは,危険なアナフィラキシー症状が出るといいます.その昔,丹沢へキャンプに行ったとき,家族が「正体不明」の腫れでヒドイ目にあったのだが,たぶんこれだろうな.
オロロ,ブユ,ブト,といろいろいわれますが,イヨシロオビアブ or メジロアブ,渓流に住む小型(1〜2cm)の吸血性アブ,ということみたい.私にも,田舎に遊びに行ったときに,藪蚊に刺されたか,ブトに食われたかして,「正体不明」の原因で「とても痒かった思い出」が,かすかに残っています.
アブはたくさん飛んでいるのを見ました.大きいアブ,ウシアブ,牛にたかるようなのもいたし.里山には,よい隣人も,つきあうのがちょっと厭な隣人たちも,いたということでしょうね.
オロロの和名は「イヨシロオビアブ(伊予白帯虻)」というのだそうです.「富山県五箇山地方ではオロロ,新潟県上越地方ではウルルと呼ばれる」とあります.田舎の近傍にいるのも,「アブより少し小型で色白」とおっしゃるからには,多分これでしょうね.蚊と同様に,メスが産卵のために,とにかく「動物の血」を必要とする.うまく血を吸えたものだけが子孫を残せるので,彼らも生き残りに必死なのでしょうが,私たちにとってしてみればハタ迷惑な話です.
「金冠堂」(♪キンカン塗ってまた塗って)のHPを見たら,吸血性のハエの仲間で,3〜4mm級の小さいものを「ブユ」,18mm〜20mmのものとしてシロフアブ,もっと大きく23mm以上のウシアブ,等々,とあります.「オロロ」といっているのは,その大きさからして,シロフアブの系統,ブユとアブとの中間の大きさのもの,を言っているらしいですね.
さらに「金鳥ハエとり線香が効くかも」とあって,『ハエとり』-『蚊とり』ではない!- 線香,というのがおもしろくて調べてみたら,品切れ状態みたい.これがあれば藪蚊にも効くから,文字通り,一石二鳥でしょうがね.蚊もハエもアブも,同じ仲間(ハエ目,双翅目)で,4枚羽の内の2枚が小さい平均棍になっていて,人間には2枚羽に見える.人間には全く同様に嫌われ者になっている.
舳倉島には,もう40年前になるかな,行ったことがある.9月に入ってからだったので,閑散としていて,蚊もそんなにはいなかった.ただ一面にハマヒルガオだけが咲き誇っていました.
カマドウマは,生家にもいて,祖母はそれをまるでユウレイでも見たように嫌がっていました.都会では一匹いても騒がれるチャバネゴキブリのほうは,カマドの隙間に沢山行列していて,センパムシと言っていたが,それには一向平気だったのにね.慣れも無知もまた,結構恐ろしいものです.
セミが再生の象徴だ,というのは,彼らが羽化して残すその脱け殻からじゃないでしょうか.ヒトの場合,単なる再生じゃ,ニーチェの永劫回帰そのもので,ちっともおもしろくないから,羽化登仙,解脱(中国では,凡俗の脱け殻(死体)を残して,いわゆる精神あるいは魂魄のみが仙人化することができると考えられたらしい,西遊記にも仏になったばかりの三蔵法師が自分の死体(魂の脱け殻)に対面してビックリするという奇妙な場面がある)の象徴として,セミが選ばれたのかもしれませんね.
セミといえば,ヒグラシ(直感には反するが,「寒蝉」と書くんだそうな)の鳴き声を聞きました.ちらほらと咲きだした萩の花に,かすかな秋の気配がします.みな再び生きめや,と,風立ちぬ.
「生存競争」について思い出すのが,サンショウウオの「共食い」現象です.先輩が採ってきたクロサンショウウオの卵塊が水槽に入れてあった.それが孵って大量のオタマジャクシ(カエルのオタマジャクシとは外エラがあることで区別される)泳ぎだした.全くエサをやらないものだから,小さいのから食べられていって,結局,最後には2匹だけが残りました.
当時は自然界でも,結局このとおりのことが起きるのだろうか,と思ったのだが,実はそうじゃなかった.いわゆる生存競争って実は種間のニッチの占有競争だったのです.そこには同種同士が争いあうという現象は滅多にみられるものではありません.水槽の中の生存競争,共食い現象って,稀な,異常な,クロサンショウウオにとっては非常事態的な,人工的に作られた「閉鎖的な環境空間」にあっての,生存競争だったのです.自然界でも確かに「閉鎖空間」はできるときがあるから,共食い現象は起るだろうが,やがては雨が降ったりして,「閉鎖空間」が破れて,世界が開かれる時,がやってきて,いわば正常状態に復帰します.
わたしたちの時代は,1学級はずっと50人〜55人ぐらいでした.高校では、落ちこぼれまいとみんな牽制しあってか,異常なほどと静かでした.卒業と同時に閉鎖空間が開かれる時がついにやってきました.最初の1年間は何かと集まったが,やがてはみんな世間の中に広がっていきました.あんな「奇妙な,異常な」時代,共食い時代,は2度と来ないのではないでしょうか.再び来てもらっても困りますが.
生家にも,昔はヤモリがいました.便所の白壁にベッタリと貼り付いていると,そのまま壁のひび割れか何かの黒い模様のように見えて,時々チョロリと動いたからそれとわかったのだが,壁に集まって来る虫たちを待ち伏せして食べてくれていたのでしょうね.ヤモリはやはり屋守だったのかな.