消えた源氏ボタル
亡き父が,夏に帰省したときには,たくさんの源氏ボタルをお土産にもって帰ってきました.彼らは,2,3日は生きていて,中庭の縁側で,ほのかに光続けていました.故郷の里山には,今もなお,源氏ボタルが生き続けているのでしょうか.
というのは,もうかれこれ20年前近くになりますが,里山の父の生家を訪れたとき,わたしが愛した「秘密の沢」がいわゆる「産廃」の不法投棄か何かで,白濁しているのを見てしまいました.これでは源氏ボタルも既に全滅しているのではないか,と思いました.
昔は平野部の水田にも,夏には平家ボタルがあたりまえのように飛んでいました.高度成長期とやらで,農薬を使うようになって,豊富にいたタニシとかカワニナとかが消滅し,それを食べていたホタルは壊滅状態になりました.しかもこの農薬は人体にまで悪影響があったはずで,友人Hはそれの影響か,はたまた飲酒によるものかは今となってはわかりませんが,肝臓をやられて死んだのではなかったのでしょうか.
富山で,源氏ボタルの出るところはやはりもうないですか.残念なことです.目先の効率優先の結果は,原発と同じで,結局,身近だった自然のイキモノたちを滅ぼすことは,ヒトが住めないような空間を作り出していることと同じです.
自然は,自らを自らにおいて作り出すことができるのです.異端の思想家といわれる安藤昌益は,そうした自己再生産する「自然」を「ヒトリ・スル」と呼びました.この自然の「再」生産力の根元が,動力学的ハイパーサイクル・システムの存在です.それを「毒」を注入すると,ハイパーサイクル・システムが停止してしまいます.それは自然の自己創造力,自己「再」生産能力を奪うことになってしまいます.それは同時に,自然と共にあるしかないヒトの「再」生産活動をも,次第に不自然なもの,偏ったものにしてしまうのではないでしょうか.