世界資本「主義」社会の現状とわたしたちの生活
バブル崩壊の前には,「高度成長」と,いわゆる「貿易摩擦」とがありました.日本製品が国際的に通用しはじめたところで,今でいえば極端な円安(つまり労賃が術アメリカに比して極端に安い)なものだから,洪水のような対米輸出が行われました.そこでアメリカの産業界が慌てて,スーパー301条を適用するし,日本でも自主規制が行われました.企業でも,自主開発はほとんどが取りやめになって,アメリカから買ってこい,になってしまいました.そこへ,インフレだ,たしかに給料は上がって,一部の高給取りは豊かになりましたが,それが結局は金余り現象になって,土地バブルです.都会で土地をもっている連中,たとえばお寺さんなどはどんどん大金持ちになって,それがますます土地価格を押し上げることになっていきました.
当時は,一戸建てはもうあきらめて,ボロマンションを改装して,一生それに住む決心をしたのです.その土地バブルが実にあっけなく崩壊してしまいました.日本ではここではじめて,ブルジョア階級というよりか大金融資本による,「国家(財政)の私物化」つまりポリスの私有財産化,が始まったのではなかったか.
今やヒト社会においては,全ての個人,全ての組織,全ての国家が,が「お金」つまり貨幣によって動かされています.細胞社会においては,全ての分子,全ての細胞,全ての組織,全ての器官,そしてすべての個体が,ATPとよばれる「万能エネルギー通貨」によって動かされているのと同様です.つまり,ヒト社会における貨幣は,細胞社会におけるATPと見事に対応しています.これを逆にいうと,ヒト社会におけるあらゆる組織は,それぞれが1つの有機体であり,すなわち,1つひとつの組織がそれぞれ1つのイキモノである,と考えることができます.ホッブズが,諸国家を,リヴァイアサンあるいはビヒモス,つまり強大なイキモノ,として表現したことに,それは典型的に顕れています.
中国共産党による少数者の支配の崩壊の兆候は,たとえば,人民解放軍が巨大化して,「自律的なイキモノ」になりはじめたこととか,鉄道省が安全無視で突っ走りはじめて,恩家宝のいうことさえ聞かなくなってきた,つまり巨大化した鉄道省組織(巨大資本)はいつしか共産党ですら統制できないような「自律的なイキモノ」になりはじめていた,ということにあらわれています.
これを防ぐには,分割して,それらを相互に競合させる,しか手はありません.日本において,JRが分割民営化されたように.米国の資本主義がここまで,とにもかくにも生き延びてきたのは,独占禁止法があったから,といえます.これをよく知っているから,共和党ですら,独占禁止法の決定には唯々諾々としたがっているのです.
その伝でいけば,中国共産党だって,いわゆる「解党的出直し」をやらないと,もう存続できないでしょう.ソ連共産党が「賢明にも」そうしたように,ね.
貨幣つまり「お金」とは,ヒトの労働の対価であり,ヒトの諸活動の価値の象徴である,ことは先にも書いたように,ATP=貨幣,と見れば明白でしょう.私たち労働者(だった者も含めて)は,自らの労働を労働力商品として,ある「資本」につまりある組織体(イキモノとしての会社組織)に売り渡すことによって,その価値の対価としての貨幣すなわち「賃金」を受け取り,さらにそれを,他の商品と交換することによって,生活を営んできました.
わたしたちは,まず「賃金」のために働く,という意味では,お金に使われており,この局面(フェーズ)ではお金に支配されています.つまり,お金が主人で私たちのほうが奴隷であるといってよい.しかし,私たちが他の商品を買うために,お金を「使う」となると,事情は全く逆転します.この局面では,私たちが主人でありお金が奴隷です.結局,お金と私たちは,お互いに,主人であったり奴隷であったりする,つまり,お互いさま,なわけですよ.
さて,自然のロゴスとは,相互無危害性(安全)と相互善行性(友愛)にあったのです.お金(資本,組織)と個々のヒトとが対等に,お互いがお互いを傷つけあうことなく,お互いがお互いを助け合うことができれば,それらは永遠に共生関係にあることができ,永遠に進化し続けることができます.
資本「主義」というのは,一方的に,お金(資本)が人々を支配し奴隷としてこき使うことを,その存在の理想とする社会のことである,としましょう.反対に,社会主義では,人々がそのお金(資本)を支配し奴隷としてこき使うことを,その存在の理想とする社会のことである,としましょう.この両方が,自然のロゴスに反しており,現実には成立しないことは,今や明らかです.
自然のロゴスにおいては,誰しも「一方的に得をする」などという器用な芸当はできないのです.つまり,悪行は悪行によって報いられ(「血の復讐」のロゴス),善行は善行によって報いられる(「正義と友愛」のロゴス)でしょう.資本主義と社会主義が「うまく」両立するためには,したがって,1つの「資本」がすなわち1つの「社会」であるような世界,が成立する必要があるでしょう.それがわがいうところの,この1つの地球=ただ1つだけの世界自由市民社会,なのです.それが実現する場合においては,いかなる国家対立もありえません.すなわち国家は死滅し,永遠平和の理想が,そこに実現するでしょう.
ユーロの高い安いはともかくも,第2次世界大戦の苦い経験からようやく1つになりはじめたヨーロッパが,貧富の差でまたバラバラになるのを見るのはちょっと悲しいことです.ずっと1つであり続けてほしいものです.そうした不断の努力の果てにこそ,ただ1つのわれらがコスモポリス,世界自由市民社会,は<ある>のではないでしょうか.