インフレとデフレ
インフレって,お金>商品,だから起きる,と思われてきていますが,現代日本ではずっとその状態が続いています.現に,市場においては金余り状態がずっと続いています.金利がどんどん低下しているのがその証拠です.預金を集めて,貸そうとしても借りる人がいないのです.金融市場ではお金が余っているのですから,いつインフレになってもおかしくないはずでしょう.
しかしデフレだ,モノ(商品)が余っている,といわれて久しい.これはどうしてでしょう.すでに,人びとの購買力あるいは購買意欲をこえてまで,商品が市場に流入してきている,ということです.モノが余っている状況のなかで,それを生産するために新規に参入したって,もうかる当てがないから,誰も金を借りてまで新しく事業を起そうとはしないのです.
簡単な話が,私などは研究に必要なモノ(本とかコンピュータとか)は一応のものはみんな買ってしまってあるので,あとは維持費と数年毎の買い換えしか必要ありません.食料品やホンノ身の回りの消耗品(歯ブラシとか)だけ買えばなんとか生活が成り立ってしまいます.高齢者はもっと商品を買わなくなっています.年金内で細々と暮そうとすれば,どうしてもそうするしかないのです.
公共事業といったって,ホントに必要な公共インフラは殆ど整備され尽くしていましょう.誰も通らないタヌキやシカが出没するような道路や,治山地水にすら役に立たないようなダムをドンドン作って,いったいどうします.それに,そうした公共事業に,もう肉体労働者(私の父も造船不況で失業していわゆる「土方」に出たことがありました)が集まらなくなっていますでしょう.そうした公共事業に「相対的に安価な」外国人労働者を雇えば,国内労働者の失業対策にもなりゃしません.
「戦時国債」を引き合いに出したのは,金余り現象の中で「国債の増発」しかもそれを「日銀に引き受けさせる」などは,非常に危険ことだからです.なぜか.
危険なのは,こうした閉塞状況を打開するには破れかぶれでそれこそ「清水の舞台から飛び下りる」覚悟で,「侵略戦争」と呼ばれる「公共(破壊)事業」を起すことが一般手っ取り早い,と考える輩が出てくることです.失業者を軍隊に入れれば失業問題は解消するだろう,外国へ行って,そこで武器や弾薬をじゃんじゃん消費すれば,モノ余り,つまり過剰生産は解消するだろう,と考える輩が出てくることです.実際,第二次世界大戦はそのようにして,不況から侵略戦争へ,として起ったのです.
しかし,現代で「侵略戦争」なんかできっこないでしょう.反撃されて自国が戦地になったら全部オジャンから,防衛に専念しようとするかもしれないが,しかしそれは全く無駄な「公共事業」たとえば,「万里の長城」のような観光にしか役に立たない壮大なモノを作る仕事になって,国民の財産を消尽させるだけです.
ですから,ホンキで後世のために投資しようとするなら,長い眼で,やらなきゃダメです.自然エネルギー開発だって,里山「再」開発とうまく組み合わせればいい仕事になるかもしれません.さらに,気長に人びとを育てること,広い意味での自然研究による人びとの陶冶,に集中して投資することでしょう.実はわたしもBT/NT/IT融合領域に「医療産業」を起そうとする「次世代のための」プロジェクトに参加していたのですが,その研究費が続かなくって撤退する他なかったのでした.
極度のインフレは,世界市場で金余りかつモノ余りの現象が延々と続くようなこの時代では,まず起らないのではないでしょうか.実際,円高で相対的に安価になった輸入商品が入ってきています.しかも,購買力が低下していますから,どうしてもデフレになる.結局,「お上」からのオコボレで生きているような寄生虫的「偉い人」連中やら,インフレなどという「神風」が吹くのを待っているような企業は,さっさと社会から退出いただき,滅び去るしかないご時世です.
今市場金利は実質0で,バブル崩壊以来ずっと金余り現象が続いています.本来ならインフレになるはずでしょうが,実質上はゆるやかなデフレが続いています.誰も金を借りてまで事業をしなくなった,する必要がなくなった,ということでしょう.これはもう市場に出回るお金と商品の量的な関係の問題ではなく,人びとの消費行動の構造,そして産業システムの構造にかかわる問題だ,と思われます.
デフレでモノが安いのは,消費者にとって,とくに年金生活者にとってはありがたいことでしょう.ただ,職を失うことの恐怖が若い人びとを萎縮させ,競争に駆り立て,他方で競争したくない人,競争できない人びと,弱者をより自閉させているのです.デフレでもインフレでも,未来への漠然たる不安が,自らの理想の実現に希望をもてないことが,あるいは理想をもてないことが,要は「未来への不安や絶望」という「死に至る病」こそが,人びとをさせ萎縮させ,より自閉させるのではないでしょうか.