はじめにお読みください
2011.3.11の東日本大震災とそれに継いだ福島原発事故は,わたしたちを取り巻く状況を大きく変えました.少なくとも,わたしたちをとりまくこの自然は恒久不変であり安定していて,そこに住むわたしたちに恩恵を与え続けるだろう,というあまりにも楽観的すぎる信念は木っ端みじんに打ち砕かれました.「国破れて山河あり」とは,今や幻想にすぎません.わたしたちヒトの営みによって作りだされた原子力発電所は,その作成・運営・管理に携わってきた当事者たちが振りまいてきた「安全神話」からは全くほど全く遠いものだったのであって,1000年に1度といわれこれまで幾度となく繰り返されてきた自然災害にも耐えられぬシロモノであったのです.わたしたちをささえている大地自身も恒久不変な安定性とはほど遠い「断えず揺れ動いて止まないもの」であったのでした.
今にして顧みれば,わたしたちとわたしたちをその内に産み育ててきた自然自身の,こうした「諸行無常」こそが,古代から現代にいたるまでの多くの人びとの「自然の探究」が明らかにしてきたことではなかったでしょうか.さらに20世紀後半に至ってついに,この宇宙それじしんが,約138億年前にたった1つの「点」状のいわば1つの万物の種子ともいえるような領域から始まり,次第に現在のように進化してきた,ということが明らかにされました.この自然じしんが,この自然が生みだしたその内に育んできた全てのものが,断えず進化することなしには存在しえない,ということが明らかになったのです.
しかし,こうした自然学上の「決定的大事件」にもかかわらず,人びとは昔ながらの「信念の体系」に固執し,共同幻想としての「砂上の楼閣」の上に,さらに屋上屋を重ね続けているように見えます.それは「現代のバベルの塔」であるといえましょう.これは,自らが依って立つところの地盤それ自身が揺れ動いていることを考えれば,きわめて危険なことではないでしょうか.今ホントに必要なのは,むしろわたしたちが依って立っているその存在基盤とでもいえる自然の存在それ自身を深く掘り下げ,その自然のロゴスの中に真に不変不動な基礎を見出し,その上に,わたしたちじしんの,わたしたちによる,わたしたちのための,新たな「信念の体系」をキチンと据え直そうとする真摯な営みなのではないでしょうか.
わたしがこの「自然の探究」にライフ・ワークとして専念しはじめたときには,正直言って,死ぬまでに一応の完成をみれば上出来であろうと思っていたのでした.しかし,東日本大震災と福島原発事故がこの状況を一変させました.もう猶予は殆どないと思わねばなりません.未完を承知の上で,2012/3/11の1周年を期に,敢えて初版をWeb化し,人びとの批判に晒そうとした所以でした.
初版には多々の誤字脱字重複があり,きわめて読みづらいものではありましたが,しかし,このように1つに纏めることによって,かえって自らの考えていたことを眼前に明らかにすることに役立つことがよくわかりました.この骨格を充実させる方向で,今後も検討し,改訂を加え続け,「生きて・育ち・進化する,自然学のオルガノン・システム」を目指そうと思います.
こうして「メタ自然学研究室」のなんとか「看板だけ」はようやく作りはじめることができました.今年度(2012年度)は1年間かけて,このコンテンツを充実させていくつもりです.実は,最初から5年間でなんとか目鼻をつけよう,という算段だったので,傍目には何もやってないように見えたのかもしれませんが,この間検討したのは,ミロクコスモス論からマクロコスモス論を含めて,ルクレティウスのよるデモクリトス/エピクロス論,プラトン/アリストテレスの古代自然学,デカルト,カントのいわゆる自然哲学,エンゲルス『自然の弁証法』はむろんのこと,相当な素材が集まっています.現代ではこれに関係して,武谷三男『自然の弁証法』も,三枝博音『技術の哲学』も,詳細に検討し,註釈をつけました.看板倒れに終らぬよう,健康が続く限り精進するつもりです.
この間わたしを誠実に批判してくれまた話し相手にもなってくれた友人たちのコメントにお答えするかたちで,この改訂を進めることができました.深く感謝いたしますとともに,読者諸賢におかれましても,忌憚なきご批判とご叱正を,今後ともお願いいたしたく存じます.
-改訂履歴-
・2012/03/11 初版作成.
・2012/3/20 初版改訂(誤字,脱字,重複等修正).
・2012/4/26 第1版
・2012/5/3 第1版改訂(本論の小規模な見直し,誤字,脱字,重複等修正)